大規模な風力発電事業が計画されている北海道 浜厚真.
浜厚真には広大な自然海岸が広がり,砂浜,草原,湿原,池沼,河川,疎林など多様な環境が,たくさんの生きものたちの生息地となっています.こうした自然豊かな海岸線は周辺ではすでに多くが失われており,浜厚真は希少な生きものたちの最後の生息地として非常に重要な場所となっています.また,渡りを行う生物にとっては,浜厚真は北海道と本州をつなぐ移動ルートにあたり,多くの渡り鳥などが集結する場所になっています.大規模な風力発電の建設と稼働は,多くの生きものに直接的,間接的に深刻な影響をもたらすと懸念されています.
そこで,この唯一性が高く,希少な環境が失われる前に,浜厚真の生物相をきちんと記録し,必要な保全策を検討するため,市民科学による生物相一斉調査~浜厚真BioBlitz 2021~が行われました.
浜厚真の鳥類
2021年7月31日と8月1日にかけて行われた浜厚真BioBlitz 2021で記録された鳥類は59種,過去の観察記録とあわせると浜厚真で記録された鳥類は238種となりました(表1).その内,環境省レッドリスト(2020)に記載されている種は41種,北海道レッドリスト(2017)に記載されている種は46種でした.
特筆すべき種としては,全国的に極端に個体数が少ないチュウヒとアカモズがあげられ,毎年繁殖が確認されている浜厚真は,これらの種の存続にも関わる重要な生息地となっています.この他,シロチドリ,タンチョウ,マキノセンニュウ,ハイタカ,オオタカ,オジロワシなどの希少種にとっても重要な繁殖地となっており,サンカノゴイやウズラも繁殖している可能性があります.
渡り時期にはガン・カモ・ハクチョウ,シギ・チドリなどの水鳥,タカ・ハヤブサ・フクロウなどの猛禽類のほか,ヒタキやホオジロの仲間などの陸鳥が多く見られます.絶滅寸前にあるヘラシギも度々記録されており,潜在的な生息地として非常に重要である可能性があります.ホウロクシギ,オグロシギ,オオソリハシシギ,ヨシガモ,ホシハジロなど世界的な希少種も多く,浜厚真はラムサール条約,東アジアオーストラリア地域フライウェイパートナーシップの登録サイトにもなり得る国際的に重要な飛来地となっています.
なお,北海道で記録されている鳥類の総種数は471種ですが,ラムサール湿地である釧路湿原で記録されている鳥類は249種,厚岸湖・別寒辺牛湿原(厚岸町全域)は237種,野付半島・野付湾は265種,大沼(七飯町全域含む)は225種,宮島沼(周辺農地含む)は217種ですので,浜厚真は道内のラムサール湿地と比較しても鳥類相が豊かで,国際的に見ても鳥類の有数の生息地であると言えます.
浜厚真の鳥類リストはこれで完成ではありません.追加種などありましたらぜひご連絡ください.また,鳥類の年間を通じた生息状況の把握のため,探鳥に訪れた際にはeBird(日本版)やフィールドノートに記録を残してください.撮影目的の場合は,撮影行為が思わぬ悪影響を招くことがあります.撮影が本当に必要で適切なのかを思案いただき,鳥類の生態等を十分知った上で,撮影マナーにご注意ください.
浜厚真Bioblitz2021 鳥類班
・先崎理之(北海道大学 地球環境科学研究院)
・松井 晋(東海大学生物学部生物学科)
・大畑孝二(公益財団法人 日本野鳥の会)
・中村聡(公益財団法人 日本野鳥の会)
・江崎逸郎(苫小牧市美術博物館) ・K.A
引用
先崎理之,松井晋,江崎逸郎,大畑孝二,中村聡.浜厚真の鳥類~浜厚真Bioblitz2021報告~.石狩川流域湿地・水辺・海岸ネットワーク.https://www.hokkaidoramsarnetwork.com/post/bioblitz2021-birds
※浜厚真の生物相については別途オープンデータサイト等で公開予定ですが,それまでは上記で引用をお願いします.
浜厚真Bioblitz2021 鳥類班&鳥類関係者からのメッセージ
・ 浜厚真は、大都市・札幌からわずか50kmほどしか離れていないにも関わらず、タンチョウやチュウヒをはじめとする絶滅危惧種を含む238種もの鳥類が記録されている極めて重要な場所です。(先崎理之・北海道大学 地球環境科学研究院)
・ 人がほとんど利用していない草地や低木の生い茂る環境が、野生生物の重要な生息地になっている場合があります。浜厚真のような生物多様性の高い地域の再評価と、自然エネルギーを利用した発電施設の設置場所の慎重な選定は、生物多様性の保全と持続可能な開発の実質的な現場レベルの課題として今後ますます重要になるでしょう。(松井晋・東海大学 札幌キャンパス 生物学部生物学科)
・ ここは、開発された自然が回復しつつある、都市近郊に残された唯一無二の希少な湿地帯です。行き場を失いかけている、湿地環境を必要とする鳥類にとってかけがえのない生息地であり、野鳥のサンクチュアリとして将来にわたり保護されていくべき地だと思います。(白木彩子・東京農業大学 生物産業学部)
・ 浜厚真地区は都市近郊にもかかわず希少な湿地や草原が残されており,ここに報告されたように非常に多様な鳥類が生息し,タンチョウやチュウヒなどの絶滅危惧種も繁殖しています.また,ガン・カモ類やシギ・チドリ類といった渡り鳥にとっての重要な飛来地や移動ルートも含んでいます.風力発電や太陽光発電のような再生可能エネルギーの普及は重要な課題ではありますが,その候補地となる場所は鳥類にとっては重要な生息環境である場合が少なくなく,事業地の選定は慎重に行われるべきです.また,湿地環境は世界的に特に希少かつ失われやすい環境です.浜厚真のような極めて多様な鳥類が利用している湿地は,大切に保全されていくべきではないでしょうか?(森さやか・酪農学園大学 環境共生学類 環境動物学研究室)
・ 浜厚真は苫小牧市や新千歳空港など、都市のすぐそばあるにもかかわらず多様な生物や環境が残されています。このような場所は希少であるばかりではなく、都市で暮らす私たちにさまざまな感動や気づきを与えてくれるほか、人と自然との関わりを問うことができる場所でもあります。浜厚真の自然環境を残すことは、都市に住む我々の未来に豊かな選択肢を与えてくれるものと思います。(江崎逸郎・苫小牧市美術博物館)
・ 1980~90年代はサンクチュアリの開設でウトナイ湖が野鳥の重要な生息地であることが認知されました。1999年の千歳川放水路計画の中止により、2000年代は苫小牧東部開発が進む勇払原野に目を向け、チュウヒやサンカノゴイ、アカモズなどウトナイ湖では繁殖しなくなった希少鳥類の生息地であることが分かってきました。そして今回のバイオブリッツ含め近年の調査で勇払原野の浜厚真地区もタンチョウやオジロワシ、シマクイナなど希少鳥類の生息地であることが確認されています。大阪ガスによる風力発電事業の適地でないことははっきりしています。(大畑孝二・公益財団法人日本野鳥の会自然保護室長代理)
・ 隣町に住む私たちは、いつもつぶさに浜厚真の自然を見ています。狭い湿地ながら鳥たちとの距離が近く、豊かな想いを育んでくれる場所です。時にタンチョウや猛禽類の調査をしながら、鳥たちとの出合にこころ弾む場所です。この自然を守りたいと思う気持ちを、どうか、未来の子供たちにも。(小山内恵子・ネイチャー研究会inむかわ)
・ 苫小牧東部大規模工業基地から辛うじて外れた当該地域は、厚真川左岸河口部にあり我が国では減少する自然海岸と湿地環境が残されている道内でも珍しい貴重な地域です。この限られたエリアには希少な鳥類をはじめ多様な生き物が生息しており、生物保全上において極めて重要であることから守らなければなりません。(富川徹・野幌森林公園を守る会)
・ 渡り鳥は地球環境のバロメーターです.しかし,今では浜厚真,サロベツや小友沼など,多くの渡り鳥の重要な飛来地や移動ルート沿いに大規模な風力発電事業が計画されています.渡り鳥にとっては,一つ一つの影響はもとより,それらがつながっていく累積的な影響が懸念され,東アジアオーストラリアフライウェイパートナーシップのガンカモ類作業部会としても強い懸念を表明しています.(牛山克巳・宮島沼水鳥・湿地センター/EAAFPガンカモ類作業部会)
・ 夏も冷涼な勇払原野には珍しい、とてつもなく暑い日の調査。前年11月に訪れた時は、荒涼とした風景が広がっていましたが、今回は、生きもののにぎわいがそこかしこに感じられました。繁殖期を過ぎた中でもアカモズなどが確認され、ここが、これら希少鳥類に残された重要な生息場所であるということを再認識しました。多くの方々に、その存在を伝えていかねばと思います。(中村 聡・公益財団法人 日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリ)
表1)浜厚真で確認された鳥類
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